2009年7月22日に皆既日食が起こった。
皆既日食は、月が太陽と地球との間に来て、太陽面全体が月面で覆われ、日光が完全に遮られる現象である。
日本では実に46年ぶりのことで、今回最も長い時間皆既日食が見られる場所は沖縄諸島であった。次に日本で皆既日食が見られるのは2035年だという。
しかし私は連日報道されている皆既日食のニュースにどうも馴染めなかった。
私は美しいとか神秘的だとかいう感情と同時に、いや、むしろそれ以上に不安な不吉な現象であると感じたのである。
理由は二つある。
一つはそれが全く人間の時間のスケールを越えているためである。人間の時間のスケールを越えるものは時に神話となる。経験として人の人生の間に繋がれる周期にあるもの、例えば一日における昼夜の逆転や、一年における季節の移り変わりや、人の一生における生死などとは違い、皆既日食は周期が長く不規則なため人間の慣習とはなりにくいのである。
もう一つの理由は、皆既日食の瞬間、空が真っ暗になり、気温が5℃ほど下がったことである。明るい空が突然暗黒となり気温が下がるという現象に、皆既日食を知らず、ましてその予測も出来ないようなかつての人間が、恐怖より先に美しいと感じるとは私には思えないのである。
そんな皆既日食よりも、私は毎日の太陽の眩しさや、毎月訪れる満月の美しさに、もっと目を向けた方が良いのではないかと思う。