2012/12/22

坂口安吾

私は「家」というものが子供の時から恐ろしかった。それは雪国の旧家というものが特別陰鬱な建築で、どの部屋も薄暗く、部屋と部屋の区劃が不明確で、迷園の如く陰気でだだっ広く、冷たさと空虚と未来への絶望と呪詛のごときものが漂っているように感じられる。
_____「石の思い」より

2012/12/14

北風が運ぶ寒さと君の声

寺田寅彦

日本の山水美が火山に負うところが多いということは周知のことである。国立公園として推された風景のうちに火山に関係したもののはなはだ多いということもすでに多くの人の指摘したところである。火山はしばしば女神に見立てられる。実際美しい曲線美の変化を見せない火山はないようである。

2012/12/13

湯たんぽや寝顔に笑みが浮かぶ夜

寺田寅彦

日本における自然界の特異性の種々相の根底には地球上における日本国の独自な位置というものが基礎的原理となって存在しそれがすべてを支配しているように思われる。

2012/12/12

寺田寅彦

鉛をかじる虫も、人間が見ると能率ゼロのように見えても実はそうでなくて、虫の方で人間を笑っているかもしれない。人間が山から莫大な石塊を掘りだして、その中から微量な貴金属を採取して、残りのほとんど全質量を放棄しているのを見物して、現在の自分と同じようなことをいっているかもしれない。

2012/11/27

坂口安吾

人生においては、詩を愛すよりも、現実を愛すことから始めればならぬ。
_____「恋愛論」より

2012/10/24

フランツ・カフカ

あいかわらず無益に六時半まで工場で働き、書類を読み、口述し、報告を聞き、報告を書いた。そしてそのあとのあいかわらずの無意味な満足感。頭痛。よく眠れない。外の空気にあたる暇もなさすぎた。
_____『日記』1915年より

2012/09/07

村上春樹

それがどんな時代であれ、ひとつの時代を生きる人生にとってもっとも大事なのは、「自分を少しでもまともに保つこと」と「誰かを少しでもまともに愛する」ことです。そしてそれはたぶん時代とは関係なく、ある程度、自分の裁量で実践していけることです。
_____03/5/27

村上春樹

僕に言えるのは、良質な物語をたくさん読んでください、ということくらいです。良質な物語は、間違った物語を見分ける能力を育てます。
_____03/5/29

2012/08/30

フランツ・カフカ

道ははてしなく長い。すこしばかり引いても足しても変わらない。それなのに、だれもが自分のちっぽけな物差しをあてて量ってみようとする。
_____『罪、苦悩、希望、真実の道についての考察』より

2012/08/27

石川啄木

浅草の夜のにぎはひに まぎれ入り まぎれ出で来しさびしき心。

2012/07/26

フランツ・カフカ

建築術は、これからは大きな進歩をとげるであろう。われわれが一年かかる工事も、百年後には半年でできるようになる。おまけにもっとすばらしい永続的な建築がつくられる。だとすると、いまからあくせく工事する必要など、どこにあるだろうか。
_____『市の紋章』より

2012/04/25

グレン・マーカット

建築として建っているもの、もしくはこれから建てられるようにデザインされたすべての建築は、つくり出されたものでなく、見出されたものだと言える。

建築の本質的な主題は、人間であり、その歴史と文化である。空間、光、素材をどうつなげて建てるか。土地への責任。良いデザインとは、これらを理解してその答えを見つけるまで模索を続けることである。建築とは、見出す過程そのものである。

創造するのではなく、発見すること。建築は発見を重ねることであり、それは私には大切なことです。

2012/04/01

村上春樹

人間にとって大事なのはむしろ、言葉にならない「何か」をそのままじっと抱え続けられる心の強さと魂の深さを獲得することではないか、と僕は考えています。
_____06/3/25

2012/02/26

ロラン・バルト

ラカン的な主題が、私に東京の市街を思い起こさせることは全くない。けれども東京は、私にラカン的な主題を思い起こさせる。すなわち、私が観念から出発して次に観念に似合う映像を見つけることは稀である。私は官能的な対象から出発し、その後その対象に相応しい抽象形式に巡り合うことを期待する。

2012/02/19

村上春樹

希望というのはだいたいの場合、待っていたら自然にでてくるものではなく、身体を動かしながら自分で作っていくものです。
_____98/8/23

2012/02/18

フランツ・カフカ

ひとりぼっちで暮らしながら、それでもときおりは他人との結びつきを願うひと(中略)ーーそういうひとは通りに面した窓なしには、ながくはやって行けない。
_____『通りに面した窓』より

2012/02/08

東山魁夷

私は、いま、波の音を聴いている。それは永劫の響きといってよいものである。波を動かしているものは何であろうか。私もまた、その力によって動かされているものに過ぎない。その力を何と呼ぶべきか私にはわからないが。
_____「風景との対話」より