2012/12/22

坂口安吾

私は「家」というものが子供の時から恐ろしかった。それは雪国の旧家というものが特別陰鬱な建築で、どの部屋も薄暗く、部屋と部屋の区劃が不明確で、迷園の如く陰気でだだっ広く、冷たさと空虚と未来への絶望と呪詛のごときものが漂っているように感じられる。
_____「石の思い」より

2012/12/14

北風が運ぶ寒さと君の声

寺田寅彦

日本の山水美が火山に負うところが多いということは周知のことである。国立公園として推された風景のうちに火山に関係したもののはなはだ多いということもすでに多くの人の指摘したところである。火山はしばしば女神に見立てられる。実際美しい曲線美の変化を見せない火山はないようである。

2012/12/13

湯たんぽや寝顔に笑みが浮かぶ夜

寺田寅彦

日本における自然界の特異性の種々相の根底には地球上における日本国の独自な位置というものが基礎的原理となって存在しそれがすべてを支配しているように思われる。

2012/12/12

寺田寅彦

鉛をかじる虫も、人間が見ると能率ゼロのように見えても実はそうでなくて、虫の方で人間を笑っているかもしれない。人間が山から莫大な石塊を掘りだして、その中から微量な貴金属を採取して、残りのほとんど全質量を放棄しているのを見物して、現在の自分と同じようなことをいっているかもしれない。