梅雨の長雨が続く午前9時過ぎ、私は母の白い軽自動車を運転して市立図書館へ向かっていた。
毎月第3日曜日は、市立図書館で除籍になった書籍を広く市民に還元する、リサイクルブックデーである。
20冊を限度に無料で書籍が手に入る今日は、私にとって月に一度の楽しみとなっている。
実はこの日が楽しみな訳は、単に本が手に入る事だけではなく、図書館がこの街で唯一かも知れない、北欧の光を体験出来る場所だからである。
北側のハイサイドライトによって満たされる、書架スペースの静かな光は、特に曇りがちで周囲の照度が低い時に強調される。
しかしこれは、北欧に訪れたことのない私の感覚ゆえに、甚だ説得力に欠けるものであろう。
一度この市立図書館の断面計画と、アルヴァ・アールト設計によるフィンランドでの作品群の断面計画とを比較しなければなるまい。もちろん日本とフィンランドの緯度の差による、太陽の位置や光の強さは、考察に不可欠な要素である。
そんなことを考えながら開館前に市立図書館へ着くと、すでに2、30人程が並んでいた。
そして開館になり中へ入ると、除籍になった本の棚に群がる人々と、雨で濡れた服と、汗と、古ぼけた本の匂いで、私はすっかり参ってしまった。
この時だけは、全く梅雨時の日本そのものであった。