伊勢湾台風に匹敵する、非常に強い台風が直撃すると予報されていた、10月8日の朝。
私は車で国道246号線を走っていた。
本格的に台風が直撃する少し前で、風が湿気を孕み縦横無尽に吹いていた。
車の窓は閉め切り、耳に付けたイヤホンからはsalyuの「ROSE」という曲が流れる。
すると私の心は窓の外の景色と離れ、内側に、深く、深く入り込んでいく。
そこには外の台風など入る隙間もない。
ふとイヤホンを外してみた。
そして窓を全開にした。
風が私の体の中にまで浸みこんでくる。
耳には雨と風と木々とタイヤの狂想曲が流れる。
私はやはり台風の中を時速80kmで走っていたのである。
心は窓の外の景色と一体となり、外側に、広く、広く入り込んでいく。
たった一枚のガラスが、私を取り巻く世界を一変させてしまうのである。
その日の夕空は、台風に洗われ、いつもより赤く染まっていた。