父が退職して一年が過ぎた。当時の事を思い出すため、一年前の私の日記を開いてみた。
「2009年12月1日火曜日。
鍵当番のためいつもより早く、朝六時半過ぎの電車に父は乗ったらしい。
私はそれより早く家を出ているのでその姿を見ることはできない。
次に父に会ったのは父が帰宅した夜10時半であった。
その間に私が父の事を考える時間は全くなかった。
当然、父がどんな椅子に座って、何を思って仕事をしているのか私は知らない。
おそらく一番理解しているのは、この何十年もの間、休まずお弁当を作り続け、駅まで車で送り迎えを続けた母なのだと思う。
私の両親にとって、送迎の時間は、最も二人が内面を吐露できる時間だったのでは無いかと思っている。」
なぜなら私の家には、夫婦だけの時間を生み出す空間が存在していないのである。