2009/05/04
夜行バス
新宿から山形・鶴岡市へ夜行バスで向かっていた。
そのバスの中で、こんな夢を見た。
夢の中では私は東京・恵比寿に住んでいて、朝起きると隣りにはMさんが寝相悪く眠っていた。
Mさんの向こうにはキッチンがあり、そこではAさんが包丁で野菜を切っていた。
ワンルームであるそのすまいを見渡すと、南の窓際にMさんの祖父の小さな盆栽があり、その窓の横の壁にクリムトの「接吻」が飾られ、ユニットバスのドア近くの壁にAさんが描いた絵が飾られていた。
MさんがAさんに起こされるまでの間、私はAさんの後ろ姿を独り占めにし、窓から入ってくる春の陽と穏やかな風に満たされた、MさんとAさんの部屋を独り占めにしていた。
目が覚めると、私は田に水を張り始めたばかりの初夏の庄内平野にいた。
そして夢に出てきた二人は、若葉が映える一本の木の下で、寄り添って立っていた。
二人が結ばれることを、神ではなく、私たちと木と、広がる平野に誓う姿は、いかにも二人らしく、自然に見えた。
2009/04/27
世田谷の大家さん
私が世田谷に住んでいた時の話である。
壁を共有した隣の家に、大家さんが住んでいた。
大家さんは80代の女性で、子供達は既に巣立ち、夫に先立たれ、現在は独りで暮らしている。
彼女は世田谷の閑静な住宅街に一軒家を持ち、趣味は油絵と庭いじりという、品の良い女性であった。
私は普段家に居ることが少なかったが、休日に何度か大家さんの庭いじりの手伝いをしたことは大切な思い出である。
ある冬の夜、大家さんは、娘に年末年始は娘の家で過ごさないかと誘われていることを、私に話してくれた。
しかし大家さんは、自分がもう年なので、これまで暮らしてきた家でゆっくり過ごしたいとも漏らしていた。
そして寒空の下、白い息を吐きながら、大家さんは私に一句詠んでくれた。
「独り居の 湯浴みの窓や 冬銀河」
次の日の朝、私は大家さんの浴室の窓から明かりが洩れ、湯気が上がっているのを想像しながら、家を後にした。

